この記事は Akerun - Qiita Advent Calendar 2025 - Qiita の 6 日目の記事です。
こんにちは、 AkiAbe - Qiita です。このアドベントカレンダーに記事を書くのも 6 年目になりました。
1. はじめに:安定と停滞の境界線
私たちは akerun というプロダクトを世に送り出して 10 年*1 が経過しました。
このプロダクトは現在も安定稼働し、おかげさまで企業としては年間黒字を維持できるまでに成長しました。
しかし、VPoE として組織と技術戦略を見る立場としては、この「安定」が「停滞」へと変わる危機感も常にあります。
企業としては安定した黒字を継続していますが、無秩序な成長よりも確実な基盤強化を優先するため、リソースの配分は極めて慎重に行っています。
これにより、私たちは全ての投資に高い費用対効果 (ROI) を求めています。
このため、エンジニア採用も厳選せざるを得ません。
採用はコストではなく、未来の利益を生み出すための投資であるからです。
本記事では、この限られたリソースの中で、私たちがどのように「技術的負債への戦略的な対応(守り)」と、「次なる 10 年に向けた未来への投資(攻め)」を、費用対効果 (ROI) を最大化しながらバランスさせているかをお話しします。
2. 「守り」のフェーズ:技術的負債の戦略的返済
10年にわたる運用の中で、技術的負債が蓄積することは避けられません。
重要なのは、そのすべてを返済しようとしないことだと思っています。
2-1. 負債の分類と可視化、優先順位の明確化
私たちは負債を 3 つに分類し、投資の優先順位をつけています。
緊急性の高い負債(セキュリティ・安定稼働)
投資を怠ると、事業継続性のリスク(ダウンタイム、情報漏洩)に直結します。
リターンは「失われるはずの利益の回避」となるため、最優先でリソースを割きます。
生産性を奪う負債(開発環境・ビルド時間)
例えば、毎日 5 分のビルド待ち時間を短縮できれば、年間の総人件費で見て大きなコスト削減効果となります。
その他にも、開発プロセスが整っておらず、作業の待ち時間が発生したりすることなどもあると思います。
この「浪費されている人件費」を算出することで、改善プロジェクトの必要性を経営層に説明します。
将来性を損なう負債(アーキテクチャの陳腐化)
現状は問題ないが、数年後の新機能開発やクラウド移行を阻害する部分となります。
これは 1 と 2 を実施した後、残ったリソースで戦略的な部分リファクタリングを行います。
2-2. 「完璧なリファクタリング」は目指さない
リファクタリングは手段であり、目的は 「事業の継続性」と「開発の効率性」 です。
私たちは、理想的なアーキテクチャを目指すのではなく、「今後 3 年間、この領域のプロダクト開発がスムーズに進む最低限の構造」に限定して手を入れる方針をとっています。
既存の技術資産を尊重し、最小限のコストで最大限の効果を出すことが、堅実な企業における負債返済の鉄則だと考えています。
3. 「攻め」のフェーズ:次なる 10 年への未来投資
守りを固めた上で、既存の黒字を未来の利益につなげるための「攻め」の開発投資を行います。
これもまた、ハイリスク・ハイリターンではなく、低コスト・高確度のものに限定されます。
3-1. 小さく始める「戦略的な実験」(PoC)
私たちは全ての新規施策を「戦略的な実験(PoC)という名の投資」と見なし、開発前に、収益増加 / コスト削減の面から仮説とその数字を明確にします。 そこで ROI 基準を満たしたものだけを推進しています。
最近の取り組みだとこの辺りが参考例となります。
akerun QR 受付システム photosynth.co.jp
akerun デジタル身分証 solutions.akerun.com
3-2. 即戦力に求める「3つの ROI マインド」
現時点で、私たちが即戦力エンジニアに求めるのは、単なる技術力の高さではありません。
それは、「投資したリソース以上のリターンを必ず出す」という ROI マインドです。
負債解消を「遊び」で終わらせない
個人的な技術的好奇心で負債を解消するのではなく、それが最終的に「開発効率化」や「システム安定化」といった定量的な成果につながることをコミットできるか。
既存技術を最大限に活用する
安易に最新のフレームワークを導入するのではなく、既存の技術スタックの寿命を最大化し、学習コストや保守コストの増加を避ける賢さ。
「事業への貢献度」を最優先にする
技術的な美しさや個人的な関心よりも、顧客価値と収益性を優先し、トレードオフの意思決定ができる。 こちらは特にシニアクラスのエンジニアには求める資質となります。
3-3. 開発生産性を変革する「AI の戦略的導入」
私たちがリソースを割くもう一つの「攻め」は、開発者 1 人あたりの生産性を変革する AI の戦略的な導入です。
大規模な AI 開発に直接投資はできませんが、私たちは「人件費の ROI を最大化する」ツールとして AI を活用しています。
具体的には、GitHub Copilot, Cursor, Claude Code, Devin などのコーディング支援 AI を戦略的に導入し、その効果を測定しています。
さらに、10年運用されたレガシーコードの仕様把握やテストコード生成への AI 活用は、技術的負債の返済効率を高めるための「守り」の AI として位置づけ、積極的に取り組んでいます。
4. まとめ:堅実な成長と技術文化の醸成
10 年続くプロダクトを保有する企業の技術戦略は、短期間で大きな山を登ることではありません。
それは、「無駄な投資をしないという規律」を守りながら、「必ず報われる投資」を積み重ね、「システムの寿命を長く、そして賢く延ばす」ことです。
派手さはないかもしれませんが、私たちの環境では、エンジニアの一人ひとりのコミットが、そのままプロダクトの安定性と企業の収益に直結します。
本質的な価値に集中し、一つ一つの技術的判断が長期的なビジネスを形作る環境で、共に IoT プロダクトの次なる 10 年を創っていく仲間を求めています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社フォトシンスでは、一緒にプロダクトを成長させる様々なレイヤのエンジニアを募集しています。 photosynth.co.jp Akerunにご興味のある方はこちらから akerun.com