メカ設計と3D CADのお話

メリークリスマス!Akerun Advent Calendar 24日目担当のskytthkと申します。 フォトシンスでは主にメカ設計を担当しており、今年は新製品、Akerun Proの開発~量産立ち上げに奔走しました。

今日はメカ設計とCADのお話です

早速ですが皆さん、3D CADってご存知でしょうか?そうです、メカ設計者の必需品、3Dで形状を設計していく、アレです。

この手のソフト、ひと昔前まではプロ仕様のものを買おうとすると1ライセンス数十万~という世界でした。学生時代はSolidworks、前職の携帯電話の設計ではPro/engineerを使っていましたが、自主トレーニングしたいときやモデリングして遊びたいとき、自宅では触れないので学校や会社でいじるしかありませんでした。しかし最近では無料、もしくは個人でも全然買えちゃうような価格で、面白いソフトが出始めています。

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エッジの線が増えるたびにニヤニヤしちゃいます

Fusion360(AUTODESK)を使ってます

そんな新興CADの中でも個人的一押しはAUTODESKさんのFusion360です。これまであまり無かったクラウドベースのCADで、新機能もばんばん追加されます。(最近では板金設計モードやECADのEagleとの統合、ブラウザモードの追加などがアナウンスされました。)図面作成など量産を見据えた機能を一通り押さえつつ、レンダリングや解析までこなせるすごいやつです。特に機能追加のペースの早さは圧巻で、気づいたら色んな機能追加や改善がされています。 細かな点はハイエンドに及ばない所もありますが、弊社では今後の期待も込めてメインの3D CADとして採用しており、Akerun Proの開発でも活用させて頂きました。

前置きが長くなりましたが、先日開発元のAUTODESKさんにお声がけ頂き、Fusion360のMeetupに登壇させて頂きましたので、その時のスライドを元に、ハードウェアスタートアップがどのように3D CADを活用しているかをご紹介させて頂きます。

当日の様子はこちら

3DCADで作ったもの

Akerun Proの内容物はこんな感じです。 本体や付属のセンサーなどに加え、設置用の両面テープや電池の絶縁シート、それからパッケージも、形状のあるものはすべて3D CADを使って形を設計しています。

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部品の製造方法に合わせて形状を考える

単純に見える製品でも、その中身は様々な部品で構成されており、量産するための工法も様々です。Akerun Proのキット内でも、部品の役割や材質に合わせて様々な工法を採用しています。

射出成形

量産品には欠かせない、最もポピュラーな工法です。身の回りのプラスチック製品の多くはこの方法で量産されています。金型に溶けた樹脂を流し込み部品を量産します。(一般的に)複雑な部品形状になるほど金型の構造も複雑化しコストアップに直結するため、その部品に求めらる役割を如何にシンプルな金型で実現できるかが腕の見せ所です。

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プレス加工

金属の板を、プレスで打ち抜いたり、曲げたりして形状を作る工法です。Akerun Proでは、本体を扉へ取り付けるためのプレートや電池端子をこの工法で量産しています。 抜きや曲げなど複数の工程を経て形状が作られるため、工程をイメージしながら形状を考えないとプレス屋さんに怒られます。 Youtubeで「順送プレス」とかで検索頂くと加工の様子がわかるかと思います。

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切削加工

男の子の大好物、いわゆる削り出しです。Akerun Proの中央のボタンは、旋盤加工とマシニング加工と呼ばれる方法で削り出されています。刃物の通る道(ツールパス)を意識して形状を考えます。

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ダイキャスト成形

Akerun Proの顔であるトップカバーは、アルミダイキャストで製造しています。原理的には(ざっくり)射出成形と同じで、金型に溶けた金属を流し込んで形状をつくります。樹脂よりも金属のほうが溶けたときの流動性が高く、冷却も早いため、成形後に「餃子の羽」のようなものが残りますが、マシニング加工できれいにします。

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開発過程とCAD画面

順番が前後してしまいましたが、上記の量産行程に移る前には設計、試作、評価を繰り返します。弊社ではざっくり以下のようなフェーズでメカ開発を進めています。ここでは各フェーズのCAD画面をご紹介します。

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原理試作

製品企画で決まった仕様を満たすメカ的な動きを実現できるかどうか、簡単な形状で試作を行い確認していきます。動きを確認できればOKなので、ほぼ手作り試作です。Akerun Proは通常の物理キーも使えるようにするため、動作時以外はモーターの動力を切るクラッチ機構を実現する必要がありました。歯車やその他の部品を組み合わせて、どうクラッチを実現するか?などをこの段階で検討します。

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サイズ検討&デザインモック

Akerunは「後付け」スマートロックのため、サイズが大きくなるとそれだけ設置できない扉が増えてしまいます。各鍵メーカーさんのカタログとにらめっこしながら、対応する鍵を最大化するためのサイズを考えます。一方で内部には電池や基板やモーターなどの内装部品を入れるスペースを確保する必要があるため、部品の配置も含めて形状を考えなくてはなりません。

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これでいけるというサイズ感が固まると、今度はデザイナーと一緒にデザインを固めていきます。ボタン付近のディテールは内装スペースとデザインのせめぎ合いで、3Dプリンターで何度もモックを作成し検討しました。

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開発試作

駆動部分の設計方針とデザインが固まると、今度はそれを結合していきます。この段階の試作を、開発試作と呼んでいます。 開発試作では試作と評価を繰り返し製品全体の品質をブラッシュアップしていくと同時に、上でご紹介した工法を意識しながら「量産できる形状」に落とし込んでいきます。

Fusion360トップダウンモデリングボトムアップモデリングのどちらでも設計できますが、今回はボトムアップモデリングっぽいアプローチでアセンブリファイルを作成しています。部品点数が増えてくると、こちらの方が後々パーツ管理しやすいです。

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開発試作~外装部品の設計~

外装部品は、ベースとなる形状を1つ作り、それを使いまわしながら設計していきます。

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開発試作~アセンブリ

合致(ジョイント)機能を極力使わないようにするため、部品同士の原点を合わせるだけで組み立て状態になるように内装部品の原点を設定しています。部品点数が増えてくると隣接する部品も増え、依存関係がどんどん増えていきます。そうすると形状変更による意図しない位置関係のズレが発生することがあるので、このような方法をとりました。

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開発試作~シミュレーション~

3Dプリンターの試作と量産時の部品では材料や製造方法が違うため、強度にも差が出てしまいます。大企業だと試作のために金型を起こして評価したりできますが、スタートアップにはなかなかそんな余裕はございません。 筐体の歪みなど気になる部分をシミュレーションで事前に確認し、形状をブラッシュアップしていきます。

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出図

開発試作での評価試験をクリアできれば、量産に向けて本格的に動き始めます。量産部品をサプライヤーさんへ発注するためには図面が必要になりますので、一つ一つ作成していきます。最終的に60部品ぐらい図面を書きました。 ここが一番の山場です。

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とっても、、大変でした、、

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量産立ち上げ

残すは楽しい楽しい量産立ち上げです。製品の出荷を見届けるまで、工場に張り付きます。自分が設計した部品がどんどん形になっていくのはとても感動的で、メカ設計の醍醐味の一つです(大変なトラブルも付き物ですが!) こっちも別に機会があればご紹介できればと思います。

最後に

少し長くなってしまいましたが、ソフト屋さんと比べてメカ屋さんの情報ってあまり出てこないので、ちょっとでも興味をもってもらえたら嬉しいです。

ちなみにFusion360ですが、恐ろしいことに個人利用ならなんと無料で使えてしまいます。インストールして損はありません。これから3Dプリンターに挑戦したい個人の方はもちろん、量産を見据えたハードウェアスタートアップを始めたい方にもおすすめですので、ぜひ試してみてください。 また、開発元のAUTODESKさんですが、少し先の、未来のものづくりを考えていて個人的にすごい好きです。(例えばジェネレーティブデザイン。今後Fusion360にも搭載される予定とのこと!) ソフトの世界と比べて長年変わらずに来たメカ設計の世界ですが、いつか大変革が来た時に取り残されないよう、こういう新しいものにはどんどん触れて行きたいなーと思いつつ日々頑張っています。

Fusion360

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